東京都知事選に寄せて

 教場試験を二つ終えて、まだなにか書きたい気分になったが、レポートを書くほどの気力もなし、大阪人ながら毎日せっせと東京都にたばこ税を払っている東京都民として都知事選について思うところがあるので、自分の考えを纏める意味も兼ねて好き勝手書く。好き勝手とは言え主要候補者の政策を全て確認したため、結局レポートなみに手間がかかってしまった。

 石原都政時代は石原慎太郎という強烈なキャラクターを通すか落とすかという戦いが唯一と言ってすらよい最大の焦点であり、大都市とは思えない抜群の高投票率を誇っていたが、今回は前任者がグダグダの末辞任した結果、選挙自体が降って湧いてきたようなものということもあってか、争点が分かりにくい。
 新聞・テレビは脱原発云々を取り上げる傾向が強い、特に毎日新聞あたりは主要テーマとして論じている。原発は「国策の失敗」「原子力」「大都市が地方に犠牲を強いる構造」と、非常にストーリーが作りやすい要素が目白押しなので、記事を書く側からすればやりたくなるだろう。しかし衆参両院の選挙ですら主要争点とならなかった原発問題が、都内に原発があるわけでもない都民最大の関心事なハズもなく、少なくとも小生が見た中で最も白けた都知事選となっていると思う。事実、世論調査では「原発は政府が結論を出すべき」との立場をとっている舛添候補が支持率首位に立っており、稼働派か再稼働派かで都の世論が分かれるという構造にはなっていない。
 もう少し原発云々について続けると、一部の候補者やマスコミが原発都知事選を絡めたくなるのは理解できる。文化大革命前夜の中国で北京市長彭真が解任された際、「中央から見れば地方、地方から見れば中央の独立王国を築いた」と批判されたが、つまり首都は地方でもあるし中央でもあるわけで、その選挙結果如何から次期国政選挙を占ってみたり、そのマスコミ露出度の高さを活かして、都民のいわば頭越しに全国へ向けて原発やら憲法について訴えることも可能である。東京都知事選に泡沫候補が多く出馬するのも、おそらく後者の理由からだろう。かつて政見放送で「選挙なんかやっても無駄だ」と主張した候補者はその最たるものであろう。
 しかし、頭越しの主張は、当選するかしないか度外視してとにかく候補を立てるスタイルの共産党泡沫候補が宣伝を目的としてやればいいだけの話であって、有権者がそれを基準に選ぶ必要もなければ選ぶべきでもない。都知事選は都民の意思を表明する場に違いないが、東京都の地方行政に対し、それを担う東京都民として責任ある立場から意思を表明すべきであって、「全国の皆さん、この選挙結果を見てください、東京都民はこう考えています、この輪を全国に広げ、国政を動かしましょう」と肝心の都政をほったらかしにしてアッピールするような無責任なものでは困る。よって、原発選挙路線が有権者からそっぽを向かれている現状には、これでいいのだと思うのである。

 では一体何が争点なのかと問われると、これがまた難しい。小生の要望としては、日本橋の真上を走り都市景観を破壊している上にあっちこっちクネクネ曲がって事故の多発しどころを具えている首都高速を筆頭に、前回の東京オリンピックに間に合わせるためにやっつけで作った都市インフラをそろそろエイヤーとばかりに整備しなおして欲しいなあとか思ったがそれはさておき、まず主要候補者について、ざっと感想段階で好きなことを書く。
 現状トップを走っている舛添氏候補、トップに立った要因としては、参院選得票数一位を獲得したこともある知名度自民党都連による支持をとりつけたのが大きいと思われる。政策で何を訴えているのかよく知らないが、おそらく元厚生労働大臣という実績を武器にしているのだろう。
 共産党推薦で元日弁連会長の宇都宮候補、多分人権派弁護士の権威なんだろう。共産党推薦の面白いところは、以前大阪府知事選で大阪城天守閣館長を出してきたり、確かに学術的、文化的には権威で社会的ステータスはあるんだが政治家から一番遠いんじゃないかという人物を推薦、案の定当選しないところだと思っている。宇都宮候補は選挙ポスターを見る限り一番真人間っぽい顔をしているが、例によって政治家という顔ではない。
 小泉元総理推薦の細川護煕候補、細川といえば小生が総理大臣というものの存在を知ったころの首相であり、当時人気のあった巨乳タレントふーみんも細川であったなと感慨深い。小生は感慨深いが、ゼミの某同期生は彼をゾンビと呼ぶ。元総理タッグで原発ゼロを旗印に東京都知事選を戦うとはこりゃまたぶっ込んだなと驚かされたが、さてその真意はどこにあるのか。
 元航空自衛隊幕僚長田母神候補、「そんなの関係ねぇ」とエッセイ騒動で幕僚長を辞めさせられ現在は2chの英雄になっているという経歴から、「ただの面白い人」であって泡沫候補に準ずるものだと認識していたが、すべての全国紙で主要候補として扱われているのを見て、言われてみれば確かに前職は航空自衛隊幕僚長閣下という戦前ならば親補職に位置づけられるべきレベルの「おえらいさん」であり、泡沫候補扱いをされるわけがないと気づいて感心した。
 雑な感想を四候補ざっと挙げてみたが、さっきから寒さのあまりに飲み始めた下町のナポレオンいいちこの酔いも手伝ってさらに雑に要約すれば、「自民都連が支持している、昔人気があった元自民の有名な人」、「共産党推薦のインテリ」、「久しぶりに開演成った小泉劇場の役者で、すごく昔に首相をやっていた殿様」、「元航空自衛隊幕僚長閣下」による選挙であり、争点もクソもないように見える。
 しかしこれは小生が雑なだけであって、他の一千万都民は政策内容を吟味した上で考えているかも知れないので、ここは一つ一つ各候補者のホームページから研究してみることにしよう。
 
舛添候補
http://www.masuzoe.gr.jp/
1.史上最高のオリンピック・パラリンピックで東京の魅力を世界へ発信
2.大災害にも打ち勝つ都市
3.安心、希望、安定の社会保障
4.中小企業の育成と世界をリードする国際競争力のある産業・人材都市
5.世界に通用する人材の育成と骨太の教育改革
6.日本を支え、変える東京外交
7.新たな政治主導モデルの実践
 要約するに、東京五輪を成功させ、災害に強い国際都市東京を政治主導で作りましょう、中小企業支援も忘れずにしますし、社会保障も共働き家庭の育児や介護を支援して、教育も脱ゆとり・グローバル人材育成路線でちゃんとやっていきますよということだろう。これと真っ向から対立する意見はあまり出ないだろう。

宇都宮候補
http://utsunomiyakenji.com/policy/
I 世界一、働きやすく、くらしやすい希望のまち東京をつくります。
II 地域経済を活性化し、環境重視・防災減災重視のまち東京をつくります。
III 原発事故被害者の支援に取り組み、原発再稼働・原発輸出を認めず、「脱原発都市東京」を実現します。
IV 教育現場への押し付けをなくし、すべての子どもたちが生き生きと学べる学校をつくります。
V 安倍政権の暴走ストップし、憲法を生かし、アジアに平和を発信する東京をつくります。
 共産党推薦だけあって、舛添候補とはかなり差がある。社会保障を最優先に環境と防災を重視した街づくりをやりましょう。教育は経済的、身体的弱者に配慮することと選択の自由を第一とし、国家からの押し付けを排除します。東京を原発反対安倍ファッショ政権反対、憲法擁護の堡塁にしよう、ということだろう。まあ、つまり共産党推薦のインテリ候補者の一言で間違いない。ここはこういうスタンスでブレないからいいのだ。

細川候補
http://tokyo-tonosama.com/#top
1.原発ゼロが新しい成長に点火する
2.2020年オリンピック・パラリンピック東京東北
3.「防災都市・景観都市・東京」に水と緑の力をいかす
4.都市基盤の整備をすすめ、美しく機能的な首都へ
5.子どもと高齢者にやさしい「先見的都市モデル」を
先見的都市モデルについては舛添候補と基本的には変わらない。雇用に関しては、舛添候補の「正社員と非正規雇用者の格差是正」と細川候補の「同一賃金同一労働」にどのような差があるのか気になるところ。上二つ、原発ゼロと五輪の東京・東北開催が、東京都民に対する訴えらしからぬ主張に見え、高齢ではあるが国政選挙に向けた下準備なのか、それとも本気でこれを都民が歓迎すると考えたのか、興味深い。とりあえず日本橋上の首都高速道路撤去の可能性を検討してくれたり(撤去するとは言っていない)、新規にバンバン建てまくるよりインフラの更新と風格ある首都景観を重視してくれるらしいので応援したいところだが、原発云々は国政の範疇であるため書いていないものとして扱うにしても、東京開催で国際的承認を受けたのを覆してまで東北と共催して欲しくもない、そもそもトップが変わったから対外的約束の内容も変えますというのは外交上論外であるから断固反対であるし、立候補の真意がわからない候補者に票を投じるのも癪なのが悩ましい。

田母神俊雄候補
http://www.tamogami-toshio.jp/
1.東京を守る!
2.東京を育てる!
3.東京を創る!
 内容を見れば「面白い人」的イメージのような変なことを言っていないのは確かだが、一見して項目が雑である。防災面ではやはり経験と、警察、消防、自衛隊の連携や地域社会の相互扶助といったソフト面を挙げているのに特色がある。教育面は安倍内閣と同じようなものという印象。福祉や都市計画はだいたい普通のことを言っているが、「広い土地が活用できる多摩地区や島しょ地域に、「老人収容所」ではない、高齢者が安心安楽に楽しく余生を送り、暮らせる、新たな「太陽の街」創り」やら「大江戸博物公園」やら、大胆な具体案を書いているのが面白い。

 纏めるに、舛添候補が一番無難に主流の政策を追いかつ網羅している上に、組織としても自民都連から支援を受けているので、おそらく舛添候補が当選するだろう。主流に反対する層が宇都宮候補に投票するとして、細川候補は原発ゼロで共産党と票を食い合っても仕方ないし、田母神候補はキワモノの域を出ることができるかが焦点になるだろう。
結局、昨年のセ・リーグ順位表のような結果になると思われる。